- なぜ、含み益で売ってしまうのか:損失回避という人間の本能
- 私が繰り返してきた「早売りの傷跡」と誤った学習
- 15年超の投資でたどり着いた、たった一つの処方箋
- まとめ:早売りは本能、だからこそ「仕組み」で制する
投資を続けている中で、誰もが一度は直面する深い悩みがあります。それは、「含み損にはじっと耐えられるのに、含み益が出ると居ても立ってもいられなくなり、すぐに利益確定(早売り)してしまう」という現象です。
正直に言います。私自身、15年超の投資経験を経た今でも、保有銘柄に含み益が出るとソワソワします。「早く売って利益を確定させてしまいたい」「せっかくの利益が幻に戻ったら嫌だ」――そう思って慌てて売却した結果、その後に株価が何倍にも爆騰していくチャートを後から悔し涙とともに眺めた回数は、何十回あったか数えきれません。
投資家として致命的とも言えるこの「利益は我慢できず、損失には耐えてしまう」という矛盾。実はこれには明確な心理学的理由があります。今回は、多くの個人投資家を悩ませる「早売り病」の正体と、私が長い七転八倒の末にたどり着いた、シンプルながら強力な処方箋をお伝えします。
なぜ、含み益で売ってしまうのか:損失回避という人間の本能

なぜ私たちは、含み益を前にするとこれほどまでに握力が弱くなってしまうのでしょうか。行動経済学における高名な概念が、その答えを証明しています。
損失回避バイアスがもたらす恐怖
行動経済学の「プロスペクト理論」では、人間は「得る喜び」よりも「失う痛み」を約2倍も強く感じるとされています。含み益が出ている状態は、私たちの脳にとって「今すぐ売らなければ、目の前にある利益を失ってしまうかもしれない」という猛烈な恐怖と隣り合わせのです。体が本能的に「今すぐ売れ!」と命令を下すため、これに抗うのは容易ではありません。これは意志の弱さではなく、人間として至極正常な反応です。
「含み損には耐えられる」という逆説の罠
一方で、含み損を抱えているときは不思議とホールドできてしまいます。その理由は「まだ損を確定していないから、現実の損失にはなっていない」と言い訳ができるからです。売ってしまえば負けが確定する。だから現実逃避のように保有を続けてしまう。つまり、含み益に耐えられないのも、含み損をガチホしてしまうのも、根っこにあるのは同じ「損失の痛みを極限まで避けたい」という本能の裏返しなのです。
私が繰り返してきた「早売りの傷跡」と誤った学習
過去、私が実際に経験した苦い事例を2つご紹介します。
- 実体験その1:ある銘柄で含み益が+8万円になった瞬間、「これだけ取れれば十分」と売却。しかし、その株は売却後わずか3ヶ月で3倍に跳ね上がりました。
- 実体験その2:別の銘柄で、一時は+5万円あった含み益が+3万円まで目減りしたとき、「あのとき売っておけばよかった」とパニックになり慌てて利益確定。結果、そこが底値となり株価は売値の倍以上に上昇していきました。
こうした手痛い失敗を何度も積み重ねると、投資家の脳には恐ろしい歪んだ学習が定着します。それは「含み益は、とにかく早めに確定させるのが正義だ」という誤った確信の形成です。これが早売り病の真の恐ろしさであり、失敗から間違った教訓を学んでしまう負のスパイラルへと陥っていくのです。
15年超の投資でたどり着いた、たった一つの処方箋
目標株価を事前に決める、半分だけ利確する、口座を見ないようにする。これまで数々の対策を試してきましたが、最終的にたどり着いた答えは、拍子抜けするほどシンプルなものでした。それが「なぜ買ったのかという理由を事前に記録しておくこと」です。
具体的には、銘柄を購入する前に、必ず以下の3点をお手元のノートやスマホに書き留めます。
- この銘柄を今日、購入する具体的な理由(業績、割安感、材料など)
- どこまで上昇したら、あるいは何が起きたら売却するかの出口戦略
- どうなったら自分の購入ストーリーが崩壊したとみなすかの損切り・撤退条件
精度高く未来を当てる必要はありません。大切なのは、実際に含み益が乗り、握力が弱まって売りたい衝動に駆られたとき、事前に書いたそのメモを凝視することです。
相場の不条理と、私自身の独白
利益を前にして、画面上の数字が上下するたびに心臓がバクバクする。これだけ投資を続けてきても、市場の不条理な値動きを前にすると自分の感情が激しく揺さぶられるのを止められません。他人の爆益報告が目に入れば焦り、自分のPFが置いてけぼりになれば「早くこの小さな利益だけでも確保して楽になりたい」と、品もなく本能が騒ぎ立てます。本当に相場という場所は、人間の精神を試す理不尽な世界です。
けれど、その売りたい衝動が湧いた瞬間に、私は自分自身に唯一の問いを投げかけます。「おい、お前がこの銘柄を買った理由はまだ死んでいないだろう?」と。買った理由が今も健在なら、どれだけ心がソワソワしようが冷徹にホールドを続ける。ストーリーが崩れているなら、たとえ損が出ていようが益が出ていようが粛々と決済する。感情ではなく、あらかじめ用意した自分の「論理」で決める。これこそが、幾多の暴落から生還してきた私が信じる唯一の予防策です。
まとめ:早売りは本能、だからこそ「仕組み」で制する
長く厳しい株式投資の世界で生き残り、資産形成を成し遂げるために必要なマインドをまとめます。
- 含み益で売りたくなるのは「損失回避バイアス」という人間正常の本能である。
- 含み損に耐えてしまうのも、同じ心理のコインの裏返しに過ぎない。
- 感情で売買のスイッチを押すのではなく、常に「買った動機が生きているか」を判断基準にする。
- 売買の明確なルールは、冷静な頭でいられる「買う前」にすべて決めておく。
15年超の航海の中で、私は数え切れないほどの間違いを犯してきました。しかし、間違えるたびに「自分の弱さの正体」を言語化し、規律という盾でそれを補強してきました。それが、元手100万から現在の資産残高1,700万超まで這い上がり、今も市場で生き残れている理由だと確信しています。
「勝てば官軍」の投資の世界。最後に笑うために、本能に支配されるのではなく、自分で敷いた規律の線路の上を、明日も粛々と進んでいきましょう。
これまでの投資実績や全期間の実現損益は、別途公開している実績ページにてまとめています。投資の最終判断はご自身の責任において行ってください。